ルノワールの名作『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』(通称:可愛いイレーヌ)の肖像画は、印象派の作品の中でも、最も美しい少女と称されており、世界的に有名な少女像の絵画といわれています。
ルノワールは、女性や子供たちをモデルに描くことが多かった画家ですが、少女の肖像を描くきっかけとなったのは、画家の登竜門である、フランスの王立絵画彫刻アカデミーの公式美術展である、サロン・ド・パリ展に作品が入選したことでした。
入選作品に描かれた子供たちの絵が大変好評を得て、上流階級の間で、子どもの肖像をルノワールに描いてほしいという依頼が多数あったことが大きな理由の一つです。
今回は、そんなルノワールが描いた可憐で美しい少女の作品にスポットを当てて紹介していきます。
- ルノワールの描いた美しすぎる少女の絵の代表作
- ルノワールの作品がサロン展で大好評、子供の肖像画制作の注文が多数入る
- ルノワールの描いた美しい少女たちの絵画
- じょうろを持つ少女
- エンリオ嬢(青いリボンの娘)
- 純情娘(The Ingénue)
- 薔薇の髪飾りの女性
- ニニ・ロペスの肖像
- アンリエット・アンリオの肖像
- マルゴの肖像
- パーンの祝日
- 少女像(瞑想)
- 少女アルフォンジン
- 少女の肖像
- ジプシーの少女
- 読書する少女
- 野の花で飾られた帽子を被った少女
- 青いヘアバンドをしたマドモアゼル
- 青い帽子の少女(ジャンヌ・アンリオット)
- デュラン・リュエルの娘たち
- 縫い物をするマリー・テレーズ・デュラン・リュエル嬢
- うちわを持つ少女
- 鷹を持つ少女
- 眠る少女(少女と猫)
- 黒い服を着た二人の少女
- 麦わら帽子の少女
- リュシー・ベラール白いエプロンの少女
- フラフープの少女
- 少女
- 猫を抱く少女(ジュリー・マネの肖像)
- カール・メンデスの娘たち
- 青いリボンの少女
- デイジーを持つ少女
- 花かごを持つ少女
- ピアノの授業
- 二人の少女の肖像
- 帽子の女
- 二人の少女
- レース帽子の少女
- 読書する少女たち
- 読書をする少女たち
- 麦わら帽子を被った少女
- 草原で花を摘む少女たち
- ピアノを弾く少女たち
- オーダーがなくてもルノワールが少女の絵を描いた理由とは?
- まとめ
ルノワールの描いた美しすぎる少女の絵の代表作
最も美しいと称される少女『イレーヌ・カーン・ダンヴェール』(可愛いイレーヌ)
こちらの作品『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)』のイレーヌは、当時8歳、ユダヤ人銀行家のカーンダンヴェール家の長女でした。
少女のあどけなさの中にも凛とした眼差し、輝くような肌や髪、洋服の質感や色使いが絶妙に美しい作品です。
こちらの作品は、『可愛いイレーヌ』といった愛称もあるほど、世界中から親しまれている作品で、少女の肖像で最も美しい作品と称されています。
イレーヌの妹たちの肖像画も描かれたが、気に入って貰えなかった
イレーヌの妹たちで、姉のイレーヌが描かれた翌年に制作されました。
おそろいの衣装を身にまとって手をつなぎ、2人仲良く描かれた作品ですが、両親は完成した作品が気に入らず、使用人の部屋にお蔵入りされてしまっていたそうです。
老後はカジノ三昧で豪遊?イレーヌと家族の人生は壮絶だった
姉のイレーヌは、19歳でユダヤ人銀行家のモイーズ・ド・カモンドと結婚し、2人の息子と娘をもうけますが、のちにイタリア人のサンピエリ伯爵と不倫関係になり、子供ができたことで、離婚します。
長男はフランス軍の戦闘機パイロットとなりますが、第一次世界大戦で戦死、また長女は有名なユダヤ人の資産家と結婚しますが、ナチスドイツの収容所に収監され非業の死をとげました。
長男が戦死したことで、前夫のカモンド家の巨額の遺産がイレーヌの元に入ってきたことで、イタリアの有名なリゾート地の地中海リヴィエラのカジノで豪遊していたそうです。
91歳まで生きたイレーヌでしたが、老後にギャンブル三昧だったのは、大切な家族を戦争で失った悲しみを埋めるためだったのかもしれません。
山田五郎さんの大人の教養講座でイレーヌ嬢についてとてもわかりやすく解説されてましたので興味があったら見てみてくださいね!
ルノワールの作品がサロン展で大好評、子供の肖像画制作の注文が多数入る
ルノワールが画家として活躍していた当時のフランスの美術界では、サロン展(サロン・ド・パリ展)に入賞し、評論家や巨匠からのお墨付きを得ることで、売れっ子の画家として活躍することができました。
ルノワールは印象派のメンバーの中でも唯一、貧しい労働者階級の出身で、経済的にも厳しい暮らしを余儀なくされていたため、なんとかして作品を購入してもらい、絵を沢山売るために、他のメンバーよりもサロン展に出展し、入選することに集中していました。
1879年、ついにルノワールが37歳の時に、サロンに出品した『シャルパンティエ夫人とその子供たち』がサロンに入選、大評判だったことにより、ルノワールは画家として成功への第一歩を踏み出しました。
シャルパンティエ夫人は、裕福な家の娘で、出版業界で成功した夫にもち、社交界では有名な家柄だった彼女の後ろ盾があったおかげで、ルノワールは各業界から注目の画家となり、富裕層の子供の肖像画の注文が多数入るようになりました。
そして、ルノワールは家の外にアトリエを借りられるくらいに絵で生計を立てられる売れっ子の画家になったのでした。
ルノワールの描いた美しい少女たちの絵画
ルノワールが生涯に渡って描き続けた美しい少女たちの作品をピックアップしてご紹介していきます。
じょうろを持つ少女
エンリオ嬢(青いリボンの娘)
ジャンヌ・デュラン=リュエル嬢
純情娘(The Ingénue)
薔薇の髪飾りの女性
ニニ・ロペスの肖像
桟敷席(ボックス席)で華やかに着飾ったモデルもつとめたニニ・ロペスは、無表情で有名なモデルだったそうですが、ルノワールらしく無表情の中にも彼女の人間性を見事に描き出しています。
アンリエット・アンリオの肖像
『青衣の女』のモデルをつとめたお気に入りのモデルで女優のアンリエット・アンリオ。
マルゴの肖像
『読書する少女』でもモデルをつとめたマルゴは、ルノワールがお気に入りのモデルでした。1879年にっ腸チフスで不慮の死をとげてしまいます。
パーンの祝日
1879年,キャンバス,油彩,64×74.5cm,
ミネソタ州ウィノナ海洋美術館,Wikimedia Commons
こちらはルノワールの主題としては珍しい古代ギリシャの神話「パーンの祝日」を主題にした作品で、ヴァルジモン城の客間に飾るために依頼されて制作されました。
ニンフと羊飼いがヤギの角と蹄を持っているギリシャ神パーンの彫像に花かんむりを作り飾っており、少女がさらに花を求めてこちらに走ってきている幻想的なシーンが描かれています。
少女像(瞑想)
1877年,キャンバス,油彩,66×56cm,ハーバー美術館,Wikimedia Commons
少女アルフォンジン
1879年,93×73cm,キャンバス,油彩,オルセー美術館,Wikimeidia commons
少女の肖像
1879年,53×44.5cm,紙,パステル,アルベルティーナ美術館,Wikimedia Commons
ジプシーの少女
1879年,73×54cm,キャンバス,油彩,個人蔵,Wikimedia Commons
読書する少女
1880年,キャンバス,油彩,57×47.5cm,
シュテーデル美術館,Wikimedia Commons
野の花で飾られた帽子を被った少女
1880年,キャンバス,油彩,個人コレクション,Wikiart
青いヘアバンドをしたマドモアゼル
1880年キャンバス,油彩,45×35cm,
Wikimedia Commons
青い帽子の少女(ジャンヌ・アンリオット)
1881年,キャンバス,油彩,40×35cm,個人蔵,Wikimedia Commons
デュラン・リュエルの娘たち
1882年,キャンバス,油彩,81.3×65.4cm,
クライスラー美術館,Wikimedia Commons
縫い物をするマリー・テレーズ・デュラン・リュエル嬢
1882年,キャンバス,油彩,65×54cm,
クラーク美術館,Wikimedia Commons
印象派の普及に大きく貢献した画商、デュラン・リュエルの娘。
デュラン・リュエルは、ルノワールやモネたち印象派の画家が無名だった時代から、印象派展に自らの画廊を貸し出すなど、積極的に画家の経済的支援や、作品の買上げに貢献していました。
うちわを持つ少女
1881年,キャンバス,油彩,65×54cm,
クラーク美術館,Wikimedia Commons
鷹を持つ少女
1880年,キャンバス,油彩,126.5cm×78.2cm,
Clark Art Institute,Wikimedia Commons
眠る少女(少女と猫)
1880年,キャンバス,油彩,クラーク美術館,Wikimedia Commons
黒い服を着た二人の少女
1881年,キャンバス,油彩,80×65cm,
プーシキン美術館,Wikimedia Commons
麦わら帽子の少女
1884年,キャンバス,油彩,54×43cm,
個人コレクション,Wikimedia Commons
リュシー・ベラール白いエプロンの少女
1884年,キャンバス,油彩,36×27cm,
個人コレクション,Wikimedia Commons
ルノワールは1880年代になり、印象派を超えて新しい表現手法を模索する段階になり、ルノワールらしいやわらかいタッチから、輪郭がはっきりする古典的な描き方へとシフトしました。
この時代は「硬い時代」と呼ばれ、表情もどこか古典絵画のような硬い印象を受けます。
フラフープの少女
1885年,キャンバス,油彩,125×75cm,
ロンドン・ナショナル・ギャラリー,Wikimedia Commons
少女
1887年,60.8×46cm,パステル,紙,
アーティゾン美術館,Wikimedia Commons
猫を抱く少女(ジュリー・マネの肖像)
1887年,キャンバス,油彩,65×54cm,オルセー美術館,Wikimedia Commons
女性の画家ベルト・モリゾのと画家マネの弟の間に出来た長女。マネがルノワールに依頼して描かせた作品です。
モリゾの娘ジュリーは、この作品をとても気に入り生涯手元から離さなかったとのことです。
カール・メンデスの娘たち
1888年,キャンバス,油彩,161.9×129.9cm,
メトロポリタン美術館,Wikimedia Commons
青いリボンの少女
1888年,キャンバス,油彩,55×46cm,
リヨン美術館,Wikimedia Commons
デイジーを持つ少女
1889年,キャンバス,油彩,65×54cm,
メトロポリタン美術館,Wikimedia Commons
花かごを持つ少女
1888年,キャンバス,油彩,60.9×46.9cm,Wikimedia Commons
ピアノの授業
1889年,キャンバス,油彩,56×46cm,
ジョスリン美術館,Wikimedia Commons
二人の少女の肖像
1890年,キャンバス,油彩,46.5×55cm,
オランジュリー美術館,Wikimedia Commons
帽子の女
1891年,キャンバス,油彩,56cm×,46.5cm,国立西洋美術館,Wikimedia Commons
二人の少女
1890-91年,キャンバス,油彩,56.5×48.2cm,
カウンティ美術館,Wikiemedia Commons
レース帽子の少女
1891年,キャンバス,油彩,55.1×46cm,ポーラ美術館,Wikimedia Commons
日本の神奈川県にあるポーラ美術館に収蔵されています。『真珠色の時代』と呼ばれるルノワールの晩年に描かれた少女は明るい色調で描かれました。
読書する少女たち
1891年,46×56cm,バーンズ財団,Wikimedia Commons
読書やピアノ、裁縫などが描かれていることが多いですが、当時のブルジョワ階級の女性の嗜みの一つでした。
読書をする少女たち
1891年,キャンバス,油彩,22×18 1/4インチ,ポーランド美術館,Wikimedia Commons
麦わら帽子を被った少女
1890年,キャンバス,油彩,個人コレクション,Wikiart
草原で花を摘む少女たち
1890年,キャンバス,油彩,65.1×81cm,ボストン美術館,Wikimedia Commons
ピアノを弾く少女たち
1892年,キャンバス,油彩,116×90cm,
オルセー美術館,Wikimedia Commons
1892年,116×81cm,オランジュリー美術館
1892年,111.8×86.4cm,メトロポリタン美術館,Wikimedia Commons
1892年ルノワールは政府からの依頼によって、『ピアノを弾く少女たち』を制作し、5点同じ構図で制作します。その中から美術の総監督担当に選定され、一番上のオルセー美術館に収蔵している作品が購入されました。
しかしルノワール自身はこちらの作品は描き込み過ぎで、出来映えに不満を感じていたそうです。
管理人は2番目のオランジュリー美術館の背景が描きかけのバージョンが好きですが、皆さんはどの『ピアノを弾く少女たち』が好きですか?
オーダーがなくてもルノワールが少女の絵を描いた理由とは?
ルノワールの『じょうろを持つ少女』や、『花束を持つ少女』は未だにモデルの名前がわかっていないそうで、肖像画の注文がなくてもルノワールは好んで少女を画題に描いていました。
1880年代は特に女性や子供の肖像を主に描いていましたが、ルノワールは生前
絵というものは、私にとって愛すべきもの、楽しくて美しいものでなければならない。人生は嫌なことが多すぎるのでね。
ピエール=オーギュスト・ルノワール
と語っていました。また、ルノワールは、絵を描く時はまるで子供が無邪気にキャンバスに絵の具を乗せるように描いていたそうですが、そんな彼にとって、まさに少女という画題は『愉しくて美しい存在』だったのかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ルノワールが描いた美しい少女の肌や髪、服は、まるで真珠の宝石のように光り輝いています。
戦争や病気、貧困など、生きていく上で目を背けたくなる数々の現実と向き合いながら、ルノワールは絵の中の少女たちに『自由』や『生きる喜び』、『美しさ』などの理想郷を描き出していたのかもしれません。
もし美術館でルノワールの描いた美しい少女たちに出会ったら、彼女たちの無邪気で楽しい命のきらめきに思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。